過敏性腸症候群について
過敏性腸症候群（IBS）は、腸に異常がないにもかかわらず、慢性的な腹痛や下痢、便秘などの便通異常が続く疾患です。排便後に痛みが和らぐことが特徴です。具体的な原因は不明ですが、ストレスや過剰な緊張、腸内細菌の変化などが関与していると考えられています。
過敏性腸症候群は致命的な病気ではありませんが、生活の質（QOL：Quality of Life）を低下させる可能性があります。薬物療法や生活習慣の改善によって症状を軽減することができますので、症状に悩んでいる方はお気軽に当院にご相談ください。
こんな症状が現れます
過敏性腸症候群では、慢性的な腹痛や下痢、便秘といった便通異常が続くほか、下痢と便秘を交互に繰り返すこともあります。排便後には痛みが和らぎ、睡眠中には症状が出にくいという特徴があります。その他、腹部膨満感やおならが増える、またはお腹が鳴るなどの症状が見られることもあります。
過敏性腸症候群の種類
過敏性腸症候群には以下の3つのタイプがあります。
下痢型
激しい腹痛を伴いながら、水っぽい便が繰り返し出ることがあります。症状がひどくなると外出が困難になることもあります。
便秘型
排便時に腹痛を感じることがあり、強くいきまないと便が出ない、または小さな便しか出ない、残便感が残るなどの症状に苦しむことがあります。
交代型
下痢と便秘が交互に現れることがあり、激しい腹痛も伴います。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の具体的な原因は不明ですが、ストレスや過度の緊張、腸内細菌叢の変化が関与していると考えられています。また、粘膜の炎症や遺伝的要因も症状に影響を与える可能性があるとされています。
FODMAP
過敏性腸症候群の症状に影響を与える因子として、FODMAPが注目されています。
FODMAPは、以下の5つのカテゴリに分類される小腸で消化・吸収が難しい糖類を指します。
- Fermentable（発酵性）
- Oligosaccharides（オリゴ糖）
- Disaccharides（二糖類）
- Monosaccharides（単糖類）
- Polyols（ポリオール）
FODMAPは、小腸での吸収が非常に悪く、摂取量が多いと腸内に蓄積されやすくなります。この蓄積により腸内の浸透圧が増し、水分が腸管内に引き寄せられます。これにより、腸管の運動が活発になり、腹痛や下痢などの症状を引き起こします。また、FODMAPが吸収されずに大腸に到達すると、大腸内の細菌により発酵され、ガス（水素、メタン、二酸化炭素）が発生します。このガスが原因で、腹部膨満感やおならの増加、腹痛が生じることがあります。
FODMAPを含む食品
以下の食品がFODMAPを多く含みます。
Fermentable（発酵性）
キャベツ、豆類（特に大豆やひよこ豆など）、アスパラガス
Oligosaccharides（オリゴ糖）
タマネギ、アスパラガス、ニンニク、豆類など
Disaccharides（二糖類）
水飴、牛乳、ヨーグルト、海藻類、キノコ類など
Monosaccharides（単糖類）
フルーツ、はちみつなど
Polyols（ポリオール）
リンゴ、桃、梨、アプリコット、スイカ、人工甘味料など
低FODMAP食
FODMAPを多く含む食品を制限する「低FODMAP食事療法」は、過敏性腸症候群の症状改善に効果が期待されており、医師や栄養士の指導のもとで実施することが勧められます。
過敏性腸症候群の検査方法
最初に問診を行い、症状を詳しくお聞きします。過敏性腸症候群と似た症状を起こす他の疾患（大腸がんや甲状腺機能亢進症など）も存在するため、適切な検査を実施し、それらの可能性がないかチェックします。
血液検査や尿検査、便潜血検査など、さまざまな検査法がありますが、以下の条件に該当する場合は、大腸カメラ検査が必要です。
- 50歳以上で初めて症状が現れた方
- 発熱がある方
- 3kg以上体重が減少した方
- 直腸からの出血がある方
当院では、大腸カメラ検査を受けることが可能です。日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医が高度な技術で検査を行い、正確な診断をつけます。大腸カメラ検査を行い、腸に異常がないことが確認された場合に、過敏性腸症候群の診断が下されます。
診断のポイント
過敏性腸症候群では、血液データなどの数値異常が見られないため、診断は以下の手順で行われます。
まず、発症時期や悪化の要因などについて詳細な質問を行います。その後、血液検査や便潜血反応、便培養検査などを実施し、炎症性腸疾患やがんの可能性が排除されているかを確認します。
その後、必要に応じて大腸カメラや注腸X線検査などの精密検査を行います。これらの検査結果に基づき、大腸がんや潰瘍性大腸炎の可能性が排除されると、過敏性腸症候群の診断が確定されます。
過敏性腸症候群の治療方法
治療法は、生活習慣の改善と薬物療法を行います。
生活習慣の改善
日頃の生活習慣を詳しくお聞きし、睡眠不足や過度な疲労、ストレスなどの悪化要因がある場合には、それらの改善方法について指導します。また、過度なアルコールや香辛料の摂取は症状を悪化させるため、摂取を控えるようにしましょう。
薬物療法
患者様の症状に応じて、腸の活動をコントロールする薬や便の硬さを整える薬、腸内細菌叢を整える薬など、適切な処方を行います。
過敏性腸症候群のお薬
イリボーやコロネルなど、複数の薬が使用されますが、まずは2週間程度服用していただき、患者様1人ひとりの効果を確認した上で、最適な薬を選択します。服用方法は薬の種類によって異なります。例えば、社会人の方ですと、1日3回の頻度が負担に感じられることがあるため、1日に1回の服用でも問題ない薬を処方することもあります。このように、患者様1人ひとりのライフスタイルに合わせた最適な処方を行います。
過敏性腸症候群を悪化させないため
過敏性腸症候群を悪化させないためには、食事、運動、睡眠などの生活習慣を改善することが重要です。体の機能を維持しながら、日常的に健康的な生活を送ることが、症状の軽減にもつながります。
食事の見直し
具体的には、朝食を抜かずに摂る、食物繊維がたっぷり含まれている食品を積極的に食べる、アルコールの摂取を控えるなど、毎日の食習慣を見直してみましょう。
適度に運動しましょう
適度な運動はストレス発散にも効果的です。運動不足の方は、ストレッチや軽い体操、ウォーキングなど、ご自分に合った範囲で毎日運動を続けるようにしましょう。
睡眠不足を解消しましょう
理想的な睡眠時間は8時間ですが、忙しい現代人にとっては難しいかもしれません。最低でも6時間は眠るように努めて、健康的な睡眠を確保してください。
